夢みたもの

彼が持っているという事は、たぶん昨日、鞄を落とした時に拾い忘れたんだろう。


「わざわざ届けてくれたの?」


昨日逃げ出した事が後ろめたい。

あたしはおずおずと彼を見上げた。


「ありがとう」


日本語も英語も通じなさそうだけれど、お礼ぐらいなら通じるのかな?


「ありがとう。探してたの」


そう言って手を差し出すと、彼はあたしの手に携帯をそっと置いてくれた。

無愛想で何を考えているのか分からない。

でも、ほんの少しだけ唇が緩んだ気がして、あたしは彼に笑いかけた。



その時。

彼がその手をあたしの頭に伸ばした。



「え?」

「ちょっ・・・」


航平がその手を振り払おうと手を伸ばした時には遅かった。


彼はあたしの頭を軽く撫でると、鳴り始めたチャイムに急き立てられるように、身を翻して教室を出て行く。

その後ろ姿を呆然と見つめて、あたしは立ち尽くした。



「ひなこ、大丈夫!?」


航平があたしの両肩を掴んで、心配そうに覗き込む。


「ひなこ?」

「・・・あ、うん」


航平に肩を揺さ振られながら、あたしは小さく頷いた。