まるで映画のワンシーンのような出来事。


余りにも自然で

余りにも突然過ぎて

あたしは動けなかった。



今の何?

何が起こったの?



一瞬静まりかえった教室が、堰を切ったように騒がしくなる。

周りに居た男子からは歓声が、女子からは悲鳴が上がった。



「ひなこ!何コレ何コレ?どういう事!?」


鞠子があたしの腕をぐいぐい引っ張ったけれど、あたしはまだ動けなかった。

目の前の彼から目が離せなくて、感情の読めない人形のような顔を見上げながら、「一体何が起こったんだろう?」とぼんやり考えていた。


そんなあたしを現実に引き戻したのは、一番よく知っている声。


「ひなこ!!」


その声に、あたしはハッとして振り向いた。


「航平」

「ひなこ 大丈夫?」


人だかりを掻き分けてやって来ると、航平は心配そうな表情であたしを見つめた。


「大丈夫?」

「うん・・・平気」


少し安心して、あたしは航平に笑いかけた。


「ちょっとビックリしただけ」

「そっか・・・」


航平はそう言って一息吐くと、あたしを後ろ手に庇うように立って彼に向き直った。