たぶん、時間にしたら僅かだけれど、自分には凄く長く感じる間。

あたしとその彼は見つめ合った。


驚き過ぎて言葉が出ない。

それ以前に、日本語が通じるのかどうかも分からない。


彼も黙ったまま。

最初は驚いたように大きな目をさらに見開いたけれど、今はただ、あたしを見ている。



どうしよう!?

何か話さなくちゃ・・・


そう思うのに、ただ焦るばかりで何も思いつかない。

頭の中は真っ白。

あたしが無意識にジリジリと後退りしかけた時だった。


持っていた鞄が手から滑り落ちて、中身がバラバラと散らばった。


「・・・わぁぁ!ご、ごめんなさい!!」


慌ててしゃがみ込んだあたし。

視界に入った綺麗な指に顔を上げると、彼も同じように腰を落とし、散らばったノートや筆記用具を拾っている。


「あ、ありがとう」


差し出された物をお礼を言って受け取ったけれど、やっぱり彼からの返事は無かった。



どうしよう。

言葉分からない・・・



限界を感じたあたしは、荷物をしっかり抱き締めると、無言で見つめ返してくる彼に愛想笑いをしながら後退りする。


「あの、あ、ありがとうございました!え〜と・・・あたし、失礼します、ごめんなさい!!」


そして、思い付く言葉を並べ立てたあたしは、そのままその場から遁走した。