夢みたもの

「行こっか?」


あたしは航平の手を引いた。


「いいの?」

「うん」


これ以上、立ち聞きするつもりはなかった。

もう充分、大切なものを手に入れたから。



そう思った時だった。



「そう‥これを渡しておくよ」


崇さんの声が聞こえてきた。


「なに?」

「義兄の日記なんだ」


「‥‥!?」


『義兄の日記』

その言葉に歩き出した足が止まる。

あたしは思わず、崇さんの手元に視線を送った。


厚い焦げ茶色の日記。

角がボロボロになったそれを、母は戸惑いながら受け取った。


「‥‥これは?」

「ひなこちゃんの事が書いてある」


崇さんは眼鏡を外して目頭を軽く押さえると、小さく苦笑した。


「事故の時、悠里が持っていたものなんだ」

「‥‥え?」

「中身を読んで‥‥きっと、聞きたい事が色々あったんだろうね。アトリエとお世話になってるカフェに行って僕を探してたらしい。‥‥話をする前に事故に遭ってしまったけど」

「‥‥そう‥」


「読みたくない?」


崇さんの言葉に、母はハッとした表情で顔を上げた。