夢みたもの

あの時の事を思い返すと、胸が温かくなる反面、少し恥ずかしくなる。

こんな歳になっても、まだ母の温もりを求めてるなんて‥‥

とても人に言えない。


2人にバレないように苦笑すると、あたしは話題を変えた。


「そういえば、今日は鞠子は来てないんだね?」

「来てるわよ?」


振り返った葵は、ため息混じりにそう言って肩をすくめた。


「今は、叶君の叔父さん目当てに叶君のお見舞い中よ」

「あぁ‥なるほど」


あたしが苦笑すると、つられたように葵も笑った。


「先日少し話したけど、確かに良い人ね」

「うん」

「あの子が夢中になる人って、良い人が多いのよ。多分、人を見る目はあるんだと思うわ」


「脈があるかは別としてね」そう付け加えて苦笑すると、葵は鞄からノートを取り出してあたしに差し出した。


「はい、今日の分。分からない処は堤君に聞きなさい」

「うん、ありがとう」


葵と航平のおかげで、授業に遅れる事は無さそうだった。

そんなあたしを見つめながら、葵は小さく首をかしげる。


「2人の仲は大丈夫そうね」

「え?」

「一時は心配したけど、もうすっかり元通りじゃない」

「うん、ありがと」

「安心したわ」


そう言って葵が笑う。

その後ろで、母が嬉しそうに微笑んでいるのが見えた。