どんどん近くなるサイレンの音。

音が重なって聞こえるから‥‥

きっと2台以上が向かってきている。


あたしは息を吐きながら目を閉じた。

呼吸の振動が背中に伝わって、鈍く痛む。

しばらく動けそうになかった。



あの時。

トラックが迫ってきた瞬間から記憶がない。

どのくらいの時間

あたしは気を失っていたんだろう‥‥?



「‥‥あたし、事故に遭ったの‥?」


そう呟いて、あたしはゆっくり目を開けた。


「‥‥動けないや‥」


「ひなこ‥」


まだ泣きそうな顔をした航平が、あたしの頭を優しく撫でる。

その手は、微かに震えていた。


「大丈夫。ひなこは‥‥大丈夫だよ」

「‥‥」

「ちょっと強く背中を打っただけだ」

「本当?‥‥良かった」


これ以上、航平に心配かけたくない。

泣きそうな顔の航平に、あたしは精一杯笑いかけた。


「そんな顔しないで‥?」

「‥‥」

「平気だよ?」

「‥‥ひなこ‥」



その時。

救急車のサイレンが止まった。

赤色灯が光っているのを脇目に確認出来る。

そして、ドアが開閉する音がしたかと思うと、バタバタと足音が近付いてきた。