突然。

人気のない公園に、甲高い笛の音が響き渡る。


「‥‥!?」


音がした方を振り向いたあたしは、力が抜けそうになった。

笛を鳴らしてやってきたのは、警官だったから。


「おぃ‥‥やべーよ!?」


後ろに立っていたもう一人の男が、うろたえた様子で目つきの鋭い男に歩み寄る。


「マジでマズいって」

「うるせーなぁ‥」

「俺‥捕まったらヤバイんだって‥‥」

「‥‥あ、おいっ!?」


チッと舌打ちすると、目つきの鋭い男は、先に走り出した男を目で追う。

その手には、あたしの携帯が握り締められたままだ。


「携帯、早く返して!」

「冗談。連絡するから、今度ゆっくり遊ぼーぜ?」

「‥‥!!」


ニヤリと不敵に笑う男。

その表情に、あたしは咄嗟に動いた。


男の手に飛びつくと、携帯を思い切り引っ張って奪い返す。


「‥‥お前っ!!」


顔色を変えた男。

あたしは携帯を握り締めると、脇目も振らずに走りだした。


「待てよっ!!」


「そこ!何してるっ!?」


近付いてくる笛の音と警官。


男がどうしたのか分からない。

追いかけてきているかもしれなかったけれど、確かめる余裕は無い。


あたしはただ、必死に走った。


走って

走って

走って‥‥


公園を抜けて、通りに飛び出す。



その時だった。



「‥‥!?」


耳を裂くような、けたたましいブレーキ音。

振り向いたあたしは、目を疑って立ちすくんだ。


向かってくる青いトラック。

まるで映画の1シーンのように、車体が目の前に広がっていく‥‥


「‥‥」


頭が真っ白になる。

何も考えられない。


あたしはただ‥‥

現実から逃げる為に、強く強く目をつぶった。



「ひなこ!!」



その時。

遠くで誰かに呼ばれた気がする。


でも、確かめる事は出来なくて‥‥


あたしの意識は遠退いていった。