夢みたもの

「あら‥‥なぁに?そんな顔して」


あたしの視線に気付いたのか、美野里さんが小さく笑った。


「気まずそうな顔しちゃって‥『どうしよう』って顔に書いてあるわよ?」

「だって‥‥」

「あ、眉間にしわ」


美野里さんはあたしの眉間を指差して笑うと、あたしに身を寄せて声を落とした。


「ありがとう。でも、大丈夫よ?」

「‥‥」

「崇さんが魅力的なのは、誰よりも解ってる。不安にならない訳じゃないわ‥‥でも、崇さんの心の中に存在する女性は消えないの」

「‥‥」

「だからこそ、私は諦めない。でも、お茶を持ってくるフリして様子を見に来ちゃう辺り‥、私もまだまだ駄目ね」


美野里さんは恥ずかしそうに笑うと、嬉しそうに崇さんと話をしている鞠子に視線を送る。


「女子高生‥‥か。可愛いわよね」

「あ‥でも鞠子は惚れっぽくて‥って言うか、憧れが強いんだと‥‥」


慌ててそう言うと、美野里さんは首を振って苦笑した。


「大丈夫よ、ひなこちゃん?」

「‥‥」

「私、だてにひなこちゃん達より年取ってないわ」


「大丈夫」そう付け加えると、美野里さんはニッコリ笑う。

それは、「強くて美しい」という表現がピッタリな大人の女性の笑顔だった。