夢みたもの

『どうかした?』

「え?」

『さっきから2人を見てるから。何かあった?』


不思議そうに首をかしげたユーリに、あたしはその腕を引っ張って耳打ちした。


「鞠子は崇さんに憧れてるみたい」

『そうだね。以前から時々お店に来ていたよ』

「そうなの?」


知らなかった。


毎日のように店に来ているのに、基本的に裏に居るからか、お客に気を回した事がなかった。


「そうなんだ‥」

『実は崇叔父さんのファンは以外と多いんだ。だから僕もそこまで気を回してなかったけど、ひなこのクラスメイトだったね』

「うん‥‥でも‥」


あたしが言いかけたその時。


「お待たせしました」


背後から聞こえた声に、あたしは思わず肩を震わせた。


「皆さんお茶で良かった?」


ニコニコ笑いながらテーブルにティーカップを並べていく美野里さん。

あたしはその姿を気まずい思いで見上げた。



美野里さんと鞠子。


鞠子はいつものように憧れかもしれない。

それでも、美野里さんの心境を考えると、複雑な気持ちになる。

目の前に、崇さんに好意を持った女子が居たら‥‥絶対面白くない。

それなのに、その感情を出さない処は本当に凄いと思った。