夢みたもの

結局その日は、葵に会う事は出来たけれど、一言も話せなかった。



葬儀から3週間経っても、葵は現れない。


『一之瀬さん、転校するんだって』


そんな噂がまことしやかに広まった。



最初は気になった空席。

それが、いつの間にか見慣れて普通になり、誰も気に留めない。

教室もクラスメイトも、葵の存在を忘れてしまったかのようで・・・

その雰囲気に、あたしは少し落ち込んでいた。



「やっぱり 止めといた方が良かったかなぁ・・・」


机の上に突っ伏して、あたしは隣に座った航平に話しかけた。


「きっと『今更なに!?』って思われたよ・・?」


最後に見た、葵の突き刺さるような視線だけが印象に残っている。

あれはやっぱり、あたしを否定する視線だったに違いない。


一度も話した事がないクラスメイト

いじめとも取れるような接し方をしてきたクラスメイト

そんなクラスメイトが突然弔問に現れたら、『ふざけるな』って思うと思う。



「あたしって、凄い馬鹿かも」

「そんな事ないよ」


航平は優しく笑う。


「ひなこがした事は無駄じゃない。一之瀬さん、きっともうすぐ学校に来るよ」

「そんな気休め言われても、全然嬉しくない・・・」


あたしは深いため息をついて目を閉じた。


「元気出しなよ」


あたしの頭を軽く撫でて、航平は小さく息を吐いた。