夢みたもの

「‥‥ほら、見て?」


すぐ側で、ヒソヒソと耳打ちする声が聞こえた。


「ね?言った通りでしょ?」

「本当ねぇ‥」


声の元は、さっき話していた女性客。

2人は好奇の表情でユーリを見つめていた。



「ユーリ、あっちに行こ?」


あたしは慌ててユーリの腕を引っ張った。


何てデリカシーが無いんだろう‥‥最低だ。

演奏中ならまだしも、本人が近くに居るのに話をしようとするなんて‥‥


耳を塞いでしまいたいのに、2人の声は否応なしに耳に入ってくる。


「折角の才能なのに、勿体ないわ」

「本当」

「可哀想に」


「‥‥!!」


再び発せられたその言葉。

思わずあたしが振り返った、その時。


「何勝手な事、言ってんの!?」


テーブルを叩く音と共に、聞き覚えのある声が聞こえた。


「オバサン達、何の権利があって勝手な事言ってんの!?」


店内に響く声。

ピアノの周りに居る客が、その声に反応してこっちを見た。


「‥‥何なの、この子?」

「ずっと聞いてたんだから!!大人のくせに‥超サイテー!!」