夢みたもの

演奏されているのは、誰もが知ってる有名なピアノソナタ。

でも‥

でも、どうしてだろう?


ユーリが演奏すると、その曲はより柔らかく‥華やかになる。


スポットライトを浴び、曲の流れに身を任せるユーリ。

その周りは、ライトのせいだけじゃなくキラキラ輝いて‥‥

その綺麗過ぎる姿に、あたしの胸がチクリと痛む。


何だか‥

何だか、ユーリが手の届かない存在に感じた。



「本当に綺麗ねぇ‥」


近くの席に座った初老の女性が、ため息混じりに呟いた。


「ピアノも素敵だけど、何て綺麗な子なのかしら‥‥」

「そうでしょう?でもあの子‥一度も喋った事ないのよ?」


同席している常連の女性が物知り顔で答える。


「どうやら喋れないみたい」

「まぁ‥そうなの」


初老の女性が気まずそうに眉をひそめた。


「神様は二物を与えずよねぇ‥。見た目とピアノの技術と引き替えに、喋れないハンデを負わせたって事じゃない?」

「‥えぇ、でも‥可哀想ね」

「‥‥!!」


その瞬間。

あたしは胸がムカムカする程の怒りを感じた。


今、何て?

今‥何て言った!?


可哀想って‥誰が?

何でそんな事言うの?


何にも知らないくせに‥‥

ユーリの事、何も知らないくせに、何でそんな事が言えるの!?



その時。

ユーリの演奏が終わって、ホールが拍手に包まれなかったら‥‥

あたしは、その場に立って居られなかったかもしれない。


ユーリがあたしに微笑みかけてくれたから‥‥

あたしは、手を握り締めて、笑顔を返す事が出来た。