夢みたもの

葵は、いつも通りの姿でそこに居た。

制服と黒のワンピースという違いはあるけれど、学校に居る時と全然変わらない。

全く動じた様子がない代わりに、顔には何の表情も浮かんでいなかった。

弔問客がお辞儀をする度、隣に立った父親と一緒にお辞儀を返している。


いたたまれなかった。


あたしには『家族』というものがよく分からない。

それでも、大切な家族が亡くなる事が耐え難い事だって事は分かる。

ましてや、血が繋がった家族なら、失った痛みはどれ程のものだろう・・・


あたしは葵から目が離せなかった。


やがて、焼香の順番が回ってきて、あたしは見よう見まねでおずおずと前に進み出る。


その時初めて、葵と目が合った。



あの時の事は、今でもよく覚えてる。


葵は、僅かに目を見開いてあたしを見た。

瞳を少しだけ揺らして、何か言いたげに唇が動きかけたけれど、その唇はすぐにキュッと引き結ばれた。


ぎこちなく焼香をして、手を合わせている間も、あたしは葵の視線を感じて落ち着かなかった。