『どうかした?』


あたしの肩を叩いて、ユーリが不思議そうに首をかしげる。


『何か変な事、言った?』


少し不安そうな目をしたユーリに、あたしは慌てて首を横に振った。


「うぅん‥‥凄く嬉しいよ!?」



譜面台に置かれた発声の本。

それは、ユーリの強い意志。


心因性失声症は、発声練習を繰り返せば治る可能性が高い。

そしてそれは、本人の『治りたい』『声を出したい』という強い意志が必要。


以前のユーリは、声の事に触れる事すらタブーだった。

声なんて出なくて構わないと、そう突っぱねられた。



だから、ユーリが自分から変わろうとしてくれるなんて思ってもみなかった。


嬉しい。

嬉しくて‥

本当に嬉しくて‥‥


あたしを見つめるユーリの熱っぽい瞳に、思わずドキリとする。



『ひなこを守る為に、僕は強くなってみせるよ』


ノートに書かれた言葉に、頬が熱くなった。

思わず上目遣いにユーリを見上げると、あたしを見つめるユーリと目が合う。



その表情は‥‥


少しだけ寂しさを滲ませつつも、昔のユーリのように華やかで‥‥

見る者を惹き付けずにはいられない、天使のような笑顔だった。