夢みたもの

「幸せです」

「そう?」


あたしは小さく頷いて再び歩き始めた。


「幸せでないはずないです。何不自由なく暮らしてて‥‥、ユーリの苦しみに比べたら‥あたしは甘え過ぎてる」



あたしの悩みは

今が幸せだから‥

その幸せに甘えてるだけ



「それは違うよ」


「‥‥え?」


あたしが再び足を止めると、崇さんはゆっくりまばたきをしてあたしを見つめた。


「悠里を基準に考えるのは間違ってる」

「‥‥」

「あぁ、別に怒ってる訳じゃないよ?」


穏やかに笑って、崇さんは眼鏡の真ん中を右手の中指で押し上げた。


「人にはそれぞれの感覚があって、それを受け止める受皿はそれぞれ違う。だから、誰かを基準に考えるのは間違ってるんだ」

「‥‥」

「悠里の感覚。ひなこちゃんの感覚。その感覚で辛いと思う事があるなら‥、それは誰かの不幸と比べる事なんて出来ないんだよ」


「だから、辛い時は甘えて良い」そう付け加えると、崇さんは小さく笑った。


「‥‥なんて偉そうな事言ったけど‥実は、今の言葉、義兄の受け売りなんだ」

「ユーリのお父さん?」

「そう。この前、義兄の日記を見つけてね‥‥」


崇さんはそう言うと、あたしを真っ直ぐ見つめて微笑んだ。


「日記には、ひなこちゃんの事が書かれてたよ」