夢みたもの

「誰も居ないわよ」


葵はため息混じりにそう言った。


「本当、そういう処には気が回るのね」

「‥‥」

「だから『もっと自分を大切にしなさい』って言ってるの」


あたしの額を軽く小突くと、葵は小さく苦笑して首をかしげた。


「それで?‥溜まってるもの吐きなさい」

「‥え?」


訳が分からなくて首をかしげると、葵は少し眉根を寄せてあたしを見た。


「ひなこがこんな時間に登校するなんて‥‥何かあったと思うに決まってるでしょ?」

「‥‥」

「昨日‥‥嫌な思いをさせてしまったのは謝るわ」

「昨日?」


思わずドキリとして息を飲んだ。



思い出すのは航平との事。

葵が知ってる筈がないのに、つい意識して鼓動が速くなった。



「昨日、茶室で騒いでるのを聞いたんでしょう?‥その後、陸上部の女子とも揉めたって聞いたわ」

「‥‥あぁ‥その事」


思わずほっとして息を吐いた。

そんなあたしを見つめながら、葵は話を続ける。


「部員の事は私のミスよ。‥‥嫌な思いをさせて悪かったわ」

「あ、全然気にしないでいいよ?‥‥皆の言う事って当然だと思うもん」

「‥‥」

「葵の言う事も分かってる。‥‥心配してくれてありがとう」


葵には本当に感謝してる。

いくら感謝しても足りないぐらいに。


あたしがそう言って笑うと、葵は頬をほんの少し赤く染めて顔を背けた。


「‥‥なに言ってるのよ?親友でしょう?」