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「雪村先輩、いつもありがとうございます」


1年の結花(ユカ)ちゃんが、水屋で茶碗の片付けをしながらあたしに言った。


客役として招かれているあたしは、練習が終わって片付けが始まると少し居心地が悪い。

帰るタイミングを逃して、痺れた足を擦りながら休憩していると、結花ちゃんが話しかけてきた。

部員でもないのに、あたしはすっかり顔馴染みだ。


「うんん。こっちこそ、いつも邪魔してゴメンね」

「そんな事ないです。部員だけだと、ついダラダラしちゃうから。部員以外の人が席に入ってくれると、席が引き締まって全然違うんです」

「そうなの?」

「そうなんです」


ニコニコ笑いながら手際よく片付けると、結花ちゃんは「中を見てきます」と言って茶室に入って行った。


「いい子でしょ?」


あたしの心を読み取ったように、いつの間にか背後に立った葵が言った。


「うん。素直だしかわいいね」


あたしの言葉に葵は頷く。


「彼女は原石ね。筋も良いし、本腰入れれば、良いモノが出てきそうなんだけど」

「へぇ・・・『本格的にやらない?』って、誘わないの?」

「誘わないわよ」


冷たくそう言って、葵は小さく苦笑する。


「厳しい世界だと知ってるのに、あえてそこに巻き込むような事はしたくないもの」

「そっか」


返す言葉が見つからなくて、あたしは相づちだけ打って葵を見た。