「あ〜・・・ゴメンね、皆。何か騒がせちゃって」

「・・・・・!!」


聞き慣れた声にハッとする。

思わず顔を上げると、航平が椅子から立ち上がっていた。


「残念ながら、皆が考えてるような事は無いんだよね〜?ま、時々ケンカする事はあるけど、俺とひなこはいつも通りだよ。何か・・・変な噂が流れてるみたいだけど、気にしないでくれるかな?」


ニコニコ笑ってそう言った航平は、ポカンとしたクラスメイトの間を通ってあたしの席に来ると、いつものように優しく笑った。


「人気者はツライね、ひなこ。ちょっとビックリした?」

「・・・航平・・・」

「そんな顔して・・・折角の顔が台無しだよ?」


そう言って小さく笑った航平は、葵の名前を呼んで振り返った。


「一之瀬さん、先にひなこを連れて帰っても良いかな?」

「あ、えぇ・・・、先生には私から伝えておくわ」

「ありがと」


葵の言葉に頷き返すと、航平は再びあたしに笑いかけた。


「そういう事だから・・・行くよ、ひなこ?」

「・・・え?」

「ほら、忘れ物しないように。いくら噂がショックだったからって、ホントの事じゃないんだから気にしたって仕方ないよ?」

「でも・・・」

「大丈夫・・・・俺がついてる」


航平はあたしの頭をクシャクシャと撫でて椅子から立たせると、あたしの荷物を肩に掛けた。


「じゃぁ、皆、また明日」

「堤君・・・!」


声をかけた葵に航平はただ頷き返すと、あたしの手を引いて教室を飛び出した。