夢みたもの

「・・・あ、この曲・・・」


ユーリが次に弾き始めた曲は、アレンジは違うけれど聞いた事がある曲だった。


数年前にTVCMで使われていた曲。

今でも時々、TVで流れているのを耳にする事がある。


「姉が作った曲だよ」

「・・・え?」

「姉は、ピアニストの第一線から引退した後、講師をする傍らで企業やアーティストに楽曲を提供していたんだ。これはその内の1曲。悠里が弾くと、またアレンジが違うでしょ?」


崇さんはそう言うと、少し寂しそうに微笑んだ。


「この曲が姉の代表作であり・・・遺作にもなった曲なんだ」

「・・・・遺作・・・」


さっき楽譜を渡した時、ユーリが一瞬戸惑ったのはこのせいだったんだ。

きっと、今でもユーリは、その時の心の傷を抱えている・・・・


「ユーリが・・・、ユーリの声が出なくなったのは、両親を亡くしたからですか?」



理由を聞いても、あたしにはどうする事も出来ない・・・


あたしは再び俯きながら、崇さんに小さく尋ねた。



「違うよ」

「え?」


意外な言葉に、あたしは驚いて顔を上げた。


「それは違うんだ」


眼鏡の奥で辛そうに目を細めて、崇さんはユーリを見つめながら話し始めた。