「こちらにどうぞ?」


店員に案内されたのは、店の奥にあるソファが並んだ一角。

その真ん中には、黒いグランドピアノが置いてあった。


「悠里君、いらっしゃいましたよ?」

「え?」

「ふふ。お店に入ってきた時にピンときました。悠里君のお友達ってね」


ニッコリ笑って再度店員が声をかけた先。

ソファに座って楽譜を眺めているユーリを見つけて、あたしはやっと安心して息を吐いた。


こんな雰囲気の店に居ても、全く違和感のないユーリはさすがだと思いつつ、逆に、店の雰囲気はユーリにピッタリだとも思った。


「今、お茶をお持ちしますね」


店員の言葉にユーリはうなずき返すと、楽譜を置いて立ち上がった。



『来てくれてありがとう』



ノートに書いてあたしに見せると、ユーリは向かいのソファを指差した。


「お洒落なお店でビックリしちゃった。こんなお店があるなんて知らなかったし・・・」


あたしがそう言って笑うと、ユーリは少しだけ目元を和ませる。



『ここは、まだオープンして間もないから』



「そうなの?」



『叔父の仕事の関係でお世話になっているのだけど、時々、ここのピアノを弾かせて貰ってる』



「へぇ?」


ノートを覗き込んであたしがうなずいた時、テーブルに白い湯気が立ち上る紅茶が置かれた。