夢みたもの

「・・・・!?」


突然の事に驚いたあたしは、肩を震わせて出窓に視線を送った。


「お帰り、ひなこ」


向かいの家の出窓から、身を乗り出すように座った航平が手を振っている。


「ずいぶん遅かったね?おばさん、心配してたよ?」


あたしが出窓を開けると、航平は手にした本を閉じてニッコリ笑った。


「用事は済んだ?」

「あ・・・うん」



気まずくて、航平の顔を直視出来なかった。



「どうかした?」

「うぅん・・・何でもない。今日はごめんね」

「別に良いんだけどさ・・・」


航平はそう言うと、小さく首をかしげてあたしを見た。


「何かあった?」

「うぅん、何も」


あたしは慌てて首を振ると、航平に笑いかけた。


「何もないよ?遅くなっちゃった」



航平には知られたくない

強くそう思った。



「ふぅん?」


納得した表情ではなかったけれど、航平はそう呟くと、それ以上詮索してこない。

その事に安心したあたしは、航平に気付かれないように小さく息を吐いて顔を上げた。



その瞬間。

息が止まりそうな程、胸の鼓動が早まった。



あたしを見つめる航平の真っ直ぐな瞳。

その表情は、とても寂しげで、苦しげで・・・・切なかった。