夢みたもの

『幸せ?』

そう問いかけてきたユーリ。



「幸せだよ?幸せでない筈ないじゃん?」


ピアノを弾く機会が多いから、家は防音設備が整っていて、部屋に入ると階下の声は聞こえない。

閉じたドアに寄り掛って、あたしは自分に言い聞かせるように呟いた。



その時。

鞄の中で、淡い光を灯しながら携帯が震えた。

鞠子からのメールかと携帯手に取ったあたしは、小窓に表示された名前に、一瞬ドキッとする。



ユーリからの着信。



慌てて携帯を開くと、音楽室で見たノートと同じように、言葉だけが並ぶシンプルなメールが届いていた。



『今日はありがとう。あの後、しばらく廊下で話し声が聞こえたけれど、大丈夫だった?』



やっぱり聞かれていた。

あの時。

ユーリが音楽室から出てこなかった事にほっとしつつ、あたしはメールに返信する。



『大丈夫だよ!こっちこそ今日はありがとう。またピアノ聴かせてね』



鞠子程じゃないけれど、絵文字を使った明るいメールを送信すると、あたしは小さく息を吐いた。

こんな風に、ユーリとメールのやり取りをするようになるなんて、思ってもいなかった。



幼い頃、あたしを救ってくれた大切な人。


誰にも知られちゃいけない。

そう心に誓った時。


ふいに出窓がノックされた。