『幸せ?』



「・・・・うん、幸せだよ」



あたしには勿体ないぐらい、優しい両親と弟が居る。

これ以上の幸せはない。

幸せでない筈がない。



『そう 良かった』



ユーリは微かに微笑むと、ノートをパタンと閉じた。


「あの・・・ユーリは?」


会話が終わってしまうような気がして、あたしは慌てて尋ねた。



聞いてはいけないのかもしれない。

でも、もっとユーリの事が知りたかった。


「ユーリは、今・・・?」



『僕は 叔父と暮らしている』



「叔父さん?」



『色々あって ウィーンから帰ってきたんだ』



「そっか・・・」


それ以上聞く事が出来なかった。


『君が好きだった曲だよ』ノートを閉じて、ユーリはピアノに向かう。

再び奏でられ始めたピアノを聴きながら、あたしはただ黙ってユーリを見つめた。


あたしを見つめるユーリの瞳は優しくて・・・

それは昔と変わらないのに、今のユーリの瞳は、その奥が暗く翳って見える。



あの頃。

あたしには、ユーリの周りがキラキラ輝いて見えた。

あたしを救ってくれる天使だと、幼心に信じていた。



でも、今のユーリには、その面影を見る事が出来ない。


同一人物とは思えなかった。