そんなあたしを真っすぐ見つめながら、彼は僅かに口元を緩める。

ほんの少し微笑んだ気がして、あたしは胸の鼓動が高まるのを感じながら、目の前に立つ彼を見上げた。

彼の瞳の中に自分の姿が映って見えて、まるで吸い込まれそうな気がする。


「あ、あの・・・」


少し慌てたあたしは、彼の視線から逃げるように下を向いて言った。


「それで・・・どうしてあたしにメモをくれたの?」


さっきより、しどろもどろになって、顔が熱くなるのを感じた。

彼はあたしの言葉に答えるように、再びペンを取ってノートに何かを書き始める。

その姿を眺めていると、程なくして、彼は開いたノートをあたしに向けた。



『最初は ドアの外で2人の男子と話している姿を見かけた』



「・・・あ・・・」


音楽室を覗こうとして、未遂に終わった最初の時だ。

ピアノの音に誘われて、誰が弾いているのか知りたくて、結局、航平に声をかけられて、そのまま帰ってしまった。



『凄く驚いた』



「あれは・・・」



あの時、見られていたなんて思わなかった。

あたしは少し気まずくて、思わず視線を落とした。