彼の雰囲気に負けないように、あたしは必死に彼の目を見据えた。



「どうして日本語が解らないフリなんてするの!?」


いくら話しかけても、彼が口を開く気配は無い。

あたしの手をつかんだまま、ただ、あたしを見つめ返してくる。



やっぱり日本語が分からないの?



余りにも反応が無くて不安になりかけた時。

ふいに彼は、つかんでいたあたしの手を離した。


「・・・?」


訳が分からなくて首をかしげるあたしの前で、彼は机の上に置いてあったノートを開くと、そこに何かを書き始める。


「何なの・・・?」


ますます混乱するあたしの目の前で、カチリと音を立ててペンのキャップを閉めると、彼は見開いたノートをあたしに見えるように向けた。



『驚かせてごめん 君と ゆっくり会いたかった』



「・・・え?」


あたしはノートと彼を交互に見つめた。

あたしの反応を確認した彼は、またノートを自分に向けてペンを走らせると、あたしに見せる。



『今朝の事もごめん』



達筆な字で書かれたノート越しに彼を見つめながら、あたしは呆然と呟いた。



「喋れないの・・・?」