夢みたもの

「不思議?」

「彼ほどの人が、何も行動を起こさないのがね」


葵はそう言いながら、首をかしげたあたしを見て小さく苦笑した。


「仕方ないわね・・・同情するべきは彼の方かな?」

「え?なに?」


あたしがそう言うと、葵はニコニコ笑いながら、またあたしの肩を叩いた。


「まぁ、青春って事ね」

「なにそれ?」



訳が分からない。


でも、葵が含みを持って話す時は、理由を聞いても誤魔化される。

経験上それを知っているので、あたしは首をかしげたけれど、それ以上の質問はしなかった。


「もぅ、そんな事よりさぁ、編入生の事教えてよ?」


少しだけ大人しくしていた鞠子が、やっぱり耐えられないという表情で話し始めた。


きっと、今朝から知りたくてたまらなかったんだろう。

チョコがたっぷりかかった菓子パンを食べながら、葵に向けた目をキラキラさせている。


あたしは今朝の事を思い出して、少しドキドキしながら2人を見つめた。


「葵ちゃんは知ってるんでしょ?」

「まぁ、一応はね」


葵が肩をすくめると、鞠子は身を乗り出して、期待のこもった顔をした。