それから、ご飯とお風呂を済ませて翔太は私に白湯を入れてくれた。
私は、昔から眠る前に白湯を飲むことが好きで小さい頃から白湯を飲まないと眠れなかった。
「沙奈。寒くないか?」
「うん。」
翔太は、テレビを見ていた私にブランケットを膝にかけてくれた。
「なあ、沙奈。
やっぱり、体調の事だけでも詳しく聞いてもいいか?」
「えっ?」
さっきは、私のタイミングでって言ってたけど…
「どうしても、話さないとだめ?」
翔太は、静かにテレビを消した。
「ごめん。さっきとは矛盾したことを言ってるよな。
沙奈が今、どう思っているかは無理に話さなくてもいいから。
だけど、やっぱり体調のことだけでも先に聞いておきたいんだ。
沙奈、少し辛いことを言うかもしれないけど今の沙奈を見ていると、あまり放ってはおけないんだ。
いつ、倒れてもおかしくない状況なんだ。
本当は、明日大きな発作か何かが出てもおかしくない。
いざという時、沙奈の体調を何も知らない状態だと沙奈を救えなくなってしまう。
それだけは絶対、嫌なんだ。
そうなったら俺、一生自分を許せないと思う。
こんな一方的でごめんな。」
翔太が謝るようなことではない。
そうだよね、体調の事だけでもちゃんと話さないといけないよね。
「謝らないで。ちゃんと話す。」
私は、今日渡された病院の紹介状の入っている封筒を、そっと翔太へ渡した。
「沙奈、体調が悪いこと自覚がなかったわけではないよな?」
「うん。」
「今、1番辛い症状は?」
「最初は少し走っただけで呼吸が苦しかったの。
息切れも、次第に酷くなっていて。
だけど、ここ最近は動くだけでも苦しかった。
咳も頻回に出ていて、眠れない日もあった。
それに、やっぱり…
病院へ行くのが怖かったの…
あの空気が、どうしても苦手なの。
誰かに、息を止められるみたいで…
胸が、苦しくなるの…。
それに…」
どうしよう…。
なんで…。
体調の事だけで、いいって言ってくれたのに…。
目頭が熱くなり、声が出せないくらい喉が苦しくなっていた。
「いいよ。ゆっくりで。」
私の身を翔太は自分へ引き寄せ優しい眼差しを私へ向けた。
その優しさに、私の言葉が止まらなくなっていった。
「だけど、そんなこと言うの子供みたいで。
怖いっていう理由だけで、病院に来れないなんて言ったら、2人に呆れられるのかなって思ったの…。
あの時、紫苑に怖いのって聞かれて胸が苦しかった。
それに、もし病気が見つかってこれからも迷惑を2人にかけていくことになったら、私…。
またいらない子って、捨てられちゃうのかなって思った。
だから、2人を遠ざけて病院の話が出る度怖かったの…。」
1度目から溢れ出した涙は、簡単に止められなかった。
何も言わず、ひたすら翔太は私の肩をさすっていた。
「ごめん。沙奈。
ちょっとだけ、沙奈を俺の膝へ乗せてもいいか?」
予想外の翔太の言葉にハッとしていると、突然私の体はフワッと宙に浮いて、気がついたら私は翔太と向き合う形で膝の上に乗せられていた。
「えっ?」
翔太と向き合うと、翔太は優しく私の涙を拭ってから抱き寄せてくれた。
「いらない子なんて、言うなよ。
俺たちにとって、沙奈はもう大切な妹なんだ。
お前がいないと、俺たちすごく寂しい。
毎日沙奈と過ごせる時間は、どれも尊いんだよ。
沙奈。
あの日、俺たちを信じて一緒に来てくれてありがとう。
これからも、俺と紫苑は沙奈を守っていくから。
この手だけは絶対に離さない。
沙奈を、失いたくないんだ。」
初めて見る、翔太の涙。
こんなにも、私を思ってくれているのに。
ずっとそばにいて、いつでも私を信じてくれていたのに。
ありがとう。
その言葉だけでは足りないくらいに、胸が締め付けられるくらい嬉しかった。
私の気持ちの表現はまだまだ未熟だけど、これからも2人を信じて向き合っていかないといけないよね。


