「翔太?
起きてたのか。」
考え込んでいると、紫苑が目を覚ました。
「どうしたんだ、そんなに難しい顔して。
何に悩んでるんだ?」
「紫苑には、分からないよ。
俺の気持ちなんか。」
そう。
俺は、紫苑より強くもないし優しくもない。
だから、沙奈が欲しがるような言葉をかけられる自信がない。
「そんなこと、言うな。
翔太。
翔太の悩みは俺が解決したい。
話してくれないか?」
どうして、そんな優しい眼差しを向けて喋るんだろう。
そんな目を向けられたりしたら、頼ってしまう。
きつく縛った心の紐が、緩んでしまう。
「紫苑、俺は紫苑みたいになれないから。
だから、俺。
紫苑みたいに沙奈を守ることが出来るか心配なんだよ。」
「えっ?」
「親父とお袋が亡くなった時だって、紫苑は1人で通夜と葬式をやり遂げた。
俺は、あの時辛くて仕方なかったのに。
俺は、紫苑とは違う。
紫苑みたいに、沙奈のこと支えていけるのかな…。
この手で、守っていきたいのに…。」
「翔太…。」
紫苑は、膝の上で眠る沙奈をベッドへ戻し俺の隣へ腰を降ろした。
「俺は、翔太がいてくれたから親父やお袋が亡くなっても、生きてこれたんだ。
守るべきものがあったから。
1人だったら俺、辛くて自殺を図ったかもしれない。
俺さ、翔太が思ってるほど強くもないし何でもできるわけではないんだよ。
通夜や葬式で喪主を務めた時も、近所の人に助けられながらじゃないと最後まで務めることなんて出来なかった。
たしかに、翔太の前では泣いてはいけない。
俺は、長男だからしっかりしなければならないと思っていた。
だけど、無理だった。
結局、俺だって1人では何も出来ないんだ。
沙奈のこともそうだよ。
あの日、病院で沙奈を引き取ること背中を押してくれたのも翔太だった。
俺は、逆に翔太がいないと何も決断なんて出来ないんだよ。」
そう言って、俺に優しく寂しい瞳で笑いかけた。
「沙奈を引き取ったことに関しても同じことが言える。
人生の中で経験したことの無いことに遭遇したら、誰しもが戸惑ったり迷ったりするだろう。
血の繋がりのない子を俺達は育てているんだ。
俺だって、これから沙奈に何ができるのか。
支え守ることができるのか正直不安なんだ。
それでも、この小さな温もりは手放したくない。
翔太もそうだろう?
だから、そんなに悩んでくれているんだろう?」
そうだ。
沙奈を守り抜く。
一緒に生きていくことを決めたんだ。
「だからさ、迷いながらだっていいじゃないか。
沙奈が幸せになれるなら。
2人でこれからも、沙奈のこと守っていこう。
沙奈を守っていけるのは、俺と翔太だけだ。
俺と翔太と沙奈は大切な家族だろ?」
「うん。
これからも、俺。
沙奈と紫苑を支えていくよ。」
「ありがとう。
だからさ、これからも何かあったら我慢せずに言えよ。」
「紫苑もな。」
「あぁ。
ありがとう。」
家族の形は、血の繋がりだけではない。
血の繋がりがないから、薄っぺらな関係ということはない。
沙奈と、多くの時間を過ごしてきてどんな日々も愛おしくて、幸せな日々だった。
手放したくない。
だから、これからも俺は紫苑と協力しながら沙奈が過去を乗り越えることができるように守り抜いてみせる。
俺の幸せは、紫苑と沙奈の幸せだから。


