「沙奈…。


沙奈!しっかりしろ、起きて!


頼む…。」



誰か、私を呼んでる?



暗闇の中、一筋の小さな光が見えた。



その光の方へ行ってみると、私は目を覚ました。



「沙奈!大丈夫か!」



「えっ?」


私の身を確かめるかのように、紫苑に抱きしめられていた。



どういうこと?


寝起きの頭で、全然ついていけなかった。



「紫苑?」



「沙奈。寝てる間すごくうなされていたんだ。

涙が出て、呼吸も浅くなって過呼吸になる1歩手前だったんだ。


起こして悪かった。」



そっか。


私、悪い夢を見てたんだ。


怖かった。



鮮明に父親からの罵声と暴力からの痛みを鮮明に思い出してしまった。



忘れかけていたのにな。



病気のせいなのかな?


そのせいで、悪い夢を見たのかな?



「沙奈、眠れそうか?」



「うん。」



本当は、眠りたくなかった。



また、あの頃の記憶を見せられる。


思い出したくもないのに。



どうでもよかったはずなのに。



「全く。本当に沙奈は我慢しちゃうよな。」



「えっ?」



「本当は、怖いんだろう?


何の悪夢を見たのかは無理に聞かないけど。


だけど、悪夢から覚めてまた眠りにつくのは誰しもが不安になる。


それに、沙奈。


涙を流して、過呼吸になりかけていたから、夢の中で辛い記憶を思い出したんじゃないのか?


あの日の出来事のことの夢を見てしまったのなら余計にだ。



そんなに大きなこと、沙奈1人に背負わせたくないから。」



「紫苑…。」



「沙奈。ちょっと俺の目を見て。」



そう言って、紫苑は私の顎をすくい私の視線を捉えた。





「沙奈、過去に囚われるなとは言わない。


無理に、忘れろとも言わない。


人の記憶は、辛ければ辛いほどその事が鮮明に残ってしまう。


本当に悲しいよな。


だけど、沙奈。


もう1人じゃないだろう?


沙奈の背負ってる辛い記憶は、俺たちにも半分分けてほしい。


一緒に背負っていきたい。


だから、一緒に少しずつでいいから乗り越えよう。


辛い過去、悲しい過去。


色んなことがあって、今の沙奈がいるんだ。


どんな時の沙奈でも、俺はたまらなく愛おしいと思う。


だから、安心して頼ってほしい。


沙奈が、辛い記憶から断ち切ることができるように俺達も考えるし協力するから。」




紫苑と、向かい合う形で膝の上に座らされた私はずっと優しい温もりに包み込まれていた。



胸が締め付けられるくらいに苦しくて、紫苑の優しさと温かさに胸がいっぱいいっぱいになっていた。



あの頃の私は、泣くことも出来なかった。



でも今は、どうしてこんなに涙が溢れ出てくるのだろうか。



紫苑は、それから何も言わずただただ小さい子供をあやす様に私が泣き止むまで背中をさすってくれていた。