話し合いから数時間後、蘭は数日分の着替えとパスポートを手に、アメリカ行きの飛行機へと乗ることになった。

「海外に行くの初めてなんですけど、俺でよかったんですかね……」

一緒に行くことになった圭介は緊張したような顔を見せる。そんな圭介に対し、見送りに空港に来てくれた碧子たちは苦笑する。

「やっぱり監察医がこれ以上いなくなるのはまずいんだ。不審死を解剖できなくなってしまうから」

マルティンがそう言い、圭介は「そうですよね……。頑張ります!」と答える。その様子を蘭は見つめた後、「お休みをいただき、申し訳ありません。私がいない間、解剖をよろしくお願いします」と頭を下げる。

「蘭……」

頭を下げ続ける蘭は、ふわりとゼルダに抱き締められる。ゼルダの体は小刻みに震えていた。

「ゼルダ?」

いつものハグではないことに蘭はすぐに気付く。蘭が訊ねると、ゼルダは震える声で言った。

「私……私やマルティンは、蘭の過去を詳しく知らない。だから、何が起きているかなんて全然わかんない。でも……すごく危険なんでしょ?」