「胃の内容物、取り出します」

「心臓の血液量は右が……」

内臓などに疾患などは見られず、内臓疾患による死因ではないということはわかった。これから血液や脳を調べる必要がある。

「実は、母親である鳴子さんがこちらに来ているんです」

警官の言葉に、蘭はジョンを見つめた。ジョンは「話を聞いてきてくれ」と蘭に言う。

「はい。深森さん、行きましょう」

日本人同士の方が落ち着いて話せるだろう。蘭はそう思いながら白衣を羽織り、鳴子が待つ応接室へと向かう。

「死因が虐待じゃなければいいんですけど……」

圭介がそう呟く中、蘭は応接室のドアをノックした。

「失礼いたします」

蘭が英語ではなく日本語で言い部屋の中へ入ると、「えっ?日本人?」と驚いたような声がした。グレーのスーツを着た真面目そうな女性がソファに腰掛け、コーヒーを飲んでいる。しかし、その目には家族を失ったという喪失感や悲しみを感じ取ることはできなかった。