だからこそ、カンペなるものを渡しておいたんだ。
本当は私が行く予定だったけれど、入院してたから…
保険としてカンペを作ってあった。
それをたまたま予定の空いていた林さんに頼んだだけだ。
だから別に教えた訳では無い。
「そう、良かったですね。じゃあ報告書の提出待ってます。」
「…あ、分かりました…」
まだ何か言いたそうにしていたけれど私は忙しい。
私の履いているパンプスが音を立てて響く。
林さんの横を通り過ぎて自分の部署へ帰る。
「あ、課長!」
1番近くにいた総務課員が私を見て笑顔になる。
軽く頭を下げてデスクに戻る。
「…なんで私が課長になって先にいる皆さんが総務課員なんでしょう…」
「え?」
…ん?あれ?
今声に出してた?
「課長が仕事以外で口利くの初めてかもしれないですね?!」
他の人も私を見て驚いている。
「…そうですね、先程の答えですけど」
この会社に務めて7年の先輩が私を見て微笑む。
「課長…松原さんは誰よりも誇れる秘書検定1級をお持ちですし、誰よりも実績をあげているじゃないですか。」
「そうですよ!営業課の佐藤よりずっとすごいですよ!
あの人は年功序列重視で課長のように自ら動かないやつですから!」
営業の佐藤…
確かさっきの林さんをこき使ってる最悪の課長か…
課長会議の時にしかみたことない人だ。
「ここにいるメンバーで課長のことを嫌いな人なんていませんよ!
確かに会社全体で見るなら課長のことロボットだの冷徹だの言う人いますけど!」
…うん、それは自覚してるから言わないでもらっていいですか…
私は聞きながら制作した書類の添削を行う。
「確かに最初はすごい怖かったです。
表情が全く変わらなくて」
「…変えてるつもりだったんだけどなあ…」
「けど誰か残ってたら一緒になって最後まで付き合ってくださったり、一緒になって考えてくださったりしてる課長を知っているので怖いよりも尊敬の方が大きくなりましたよ!」
…あ、ミス発見。
「私たちより年下で最年少なのにこんだけ実績上げてるんですよ?
課長のこと尊敬してます!
秘書課の木平さんも最年少課長でしたよね?」
「あ、確かにそうだ!課長と同じくらいに入社してきて同じくらいに課長になった人!」
…お、できた…
「…って聞いてます?」
「……ん?」
「聞いてませんでしたね?」
「…あ、私?きいてたきいてた。
課長すごいって言ってた」
「要約するとそんな感じですよ!」
USBにデータ入れて、と…
…仕事終わったあ…
「あ、課長上がりですか?」
「そう、またしばらく来れないと思う。
その間よろしくね。
何かあれば携帯にかけて来て。」
私は携帯番号を付箋に書いてパソコンに貼り付ける。