そんなこと、言われたこと無かった。
いつでも、仕事終わりしか会ってなかったし、こんなふうに家まで来てくれることすらなかったから。
「素顔の麗華も可愛い」
「…やめて…言われ慣れてないから…」
…そろそろ顔に出てしまう。
隣から覗くようにして見てくるもんだから持っていた文庫本で顔を隠す。
「…なんで隠すの。」
「……恥ずかしいから…」
今まで隣にいたことはあってもここまで近くで見られることは無かったから…
「ほら、こっち向いてよ。」
「…やだ」
なんで今日の将斗くん、こんなに積極的なの?
何かあったんじゃないの?
「いや?」
「…うん」
「そっか。」
しゅん、とした顔で隣で膝を抱える将斗くん。
…やっと離れてくれた…

「…なんて、言うと思った?」

再びこちらに向き直った将斗くんにはニヤッとした意地の悪い顔がついていた。
「…へ…?」
「おだまり。」
将斗くんの手で顎を引かれ、そのままキス。
将斗くんの空いている片方の手で私がバランスを取るため、床に着いている手を握る。
突然のことに困惑する私。
「…びっくりした?」
「…」
びっくりなんてもんじゃない。
…確かに、びっくりはしたけど…
好きな、人とするキスがこんなに幸せなんて…
「麗華?」
「あっ…」
「…嫌だった?」
「嫌なわけないっ!」
将斗くんの真っ直ぐな目が。
寂しさで満ちていた。
そんな顔をさせたかったわけじゃ、ないのに…
「…いや、じゃない。びっくりしたの…」
「ほんと?」
「…うん、好きな人とキスするのがこんな幸せなんて…思ってなくて…」
将斗くんの顔に笑顔が戻ってくる。
「もう1回、言って。」
「えっ?」
「誰と、キスするのが幸せ?」
ニコニコーって。
キラキラ輝く笑顔で私を見つめる将斗くん。
「…ま、将斗くんと…」
「うんうん、よかったあ〜っ!」
些細なことで一喜一憂する将斗くん。
私はそんな将斗くんが大好き。
【松原麗華side END】

【堀江将斗side】
「麗華?」
「ん?」
突然麗華の家に押しかけてしまった俺。
玄関で呆れたような顔をされてしまったがやはり優しい。
「…もう1回、してもいい?」
「…聞かないでよ」
そして、キスしても拒まず受け入れてくれる彼女。
1回目は驚いた顔をされたが2回目では照れたのか真っ赤な顔をしていた。
「…他の男の前でそんな顔しちゃダメだよ?」
「?何言ってるか分からないんだけど。」
少しずつ麗華の表情にも変化が現れはじめた。