「うみは、お子ちゃまだからなぁ」
「う。(いな)めませぬ」
「だしょ」
 井森がスコートの玉入れポケットから出した蛍光ピンクのミニタオルをひらひらと振った。
「この間、大海が落としたハンカチをさ、バクくんが拾ってやったのよ。そのあとの大海の顔を見てたら、あんたもう、のほほんとしていられないわよ」
「――ぇ」
 それどういう意味?
「男なんて早めにツバつけとくもんだよ、これ、あたしの忠告」
 え? えええ?
 大海ちゃんと(ばく)
 映像がまったく浮かばないまま立ちすくむあたしをおいて、井森はスコートのすそをひるがえして去っていった。

 大海ちゃんが?
 あのおとなしい大海ちゃんと、麦が……?
「そんなこと――…」
 信じられない?
 信じたくない?
「あー、もうっ!」
 こんなときボールを追いかけられれば、頭をからっぽにできるのに。
 6月にもなって、なにひとつ熱中できることが見つからないなんて。
 高校に受かったら、あれもしようこれもしようって。
 受験生のときはあんなに考えてワクワクしたのに。
「あたしって、サイテー」
 生徒玄関には、もうだれもいない。