「うそ。あたしAB型かA型じゃないの? うちB型なんていないよ」
「おや」プレパラートから顔を上げたのは伊勢くん。
「AB型とAO型の両親からBO型が生まれたパタンですね。ご兄弟は?」
「ぇと……」
 将棋部の伊勢くんは、いつでも冷静だ。
 おかげでケンカ腰のあたしたちも鎮火。
「弟が小学生」
「ああ、そんなかんじぃ」
 石川が鼻で笑った。
 なんだと?
「どういう意味よ、それ」 
「……弟と、同レベル。ぷぷ」
「なんだってぇ、もっペん言ってみな、石川っ」
「オレは理性のA型だから、おまえなんか相手にしねぇよ」
はぁぁあ?
 思わず口をあんぐりあけたとき、石川の向かいから大海ちゃんがうれしそうにあたしに呼びかけてきた。
「ねっ、相田(あいだ)ちゃん見て。ほら、赤根(あかね)くんAB型なの。わたしもAB型なのよ」
 ヘー。
 大海ちゃんは、同じように凝集しているプレパラートを2枚、わざわざ立ち上がってあたしの前に持ってきた。
 いや、ちがうから。
「っもう。大海ちゃんまで! 赤根に用なら赤根に直接言って」
「あ、ごめんなさい」
 や。ごめん、ごめん。そんなビビらないでぇ。
 こんなにキツく言うつもりじゃなかったんだよ。
「やーい、やーい、召使い」
「石川っ」
 すっかり1年D組・やかましコンビとして定着したあたしと石川が、麦の背中越しにやりあっていると、突然、
「いいかげんにしろよ」麦が吐き捨てるように言った。