「そうだ、井森。赤根(あかね)くんに貸してもらえば? ねぇ、赤根くん」
「えっ……」
 えっ…じゃないんだよ。
 全部、聞いてたでしょ。
 おまけに笑ってくれちゃって。
「うちの組が誇る秀才だもん。あたしのノートより赤根くんのノートのほうが、ずっと見ごたえあると思うよ」
「あーん、もう休み時間終わっちゃうわ。お願い、バクくん」
 ば・く・く・ん!
 いったい、なにごと?
 ちょっと、なれなれしいんじゃないの、井森ってば。
 ま、あたしには関係ないか。
 …と思ったのに。
 赤根がぼそぼそなにか言ってる。
 それ、絶対、あたしにだよね?
「なに?」
 仕方ないから聞いてあげるわよ。
「……おれ、ノートとってない」
「はいぃ?」「えぇぇぇぇ!」
 赤根は女子ふたりのリアクションに、失礼なことに耳をふさいだ。
 井森の手がバンバンあたしの肩を叩く。
 赤根はうつむいて、もうあたしたちを見ない。
 見ないからってだまされないわよ。
 どうせ、秀才さんには、あくせくノートを取るあたしたちがマヌケに見えているんでしょ?
「すっごーい。さすがバクくん。尊敬」
 はぁ?
「井森ぃ……」
 やっぱり、この子とは感性があわないわ。
 あたしたちは、ばかにされたの。
 わからないの?
 …と脱力していると始業のチャイムが鳴った。