片思いー終わる日はじめる日ー

 向かいのベンチに座っているちびちゃんと目が合った。
「はい、べろべろばー」
 子どもに手を振られてりゃ、世話ないや。
 よっぽどひまそうに見えるんだろな。
 ひまなんだけど。
 ほら。
 ひまなお姉さんを見ててごらん。
 ほっ。ほっ。
 ほーら、不思議だろ。
 これをやると、弟の真人も大喜びの必殺技だぞ。
 お姉さんのひとさし指と中指の間には、見えないたばこがあってね。
 ほっ。ほっ。ほっ。
 吸うと口から白いケムリが出るんだぞぉ。
 向かいのベンチのちびちゃんが、足をぶんぶん振って喜んでる。
 いやー。うけた、うけた。
「ぷっ!」
 うわ。
 うしろのだれかにも、うけちゃった?
「帰ったんだと思った。…よいっしょっと」
 ベンチをうしろからまたいで来るやつ!

 黒のデザートブーツ。
 ストレートのブルージーンズの脚。
 モスグリーンのコートのすそがひらめいて。
 黒のハイネックの肩にはコートのフードが広がっている。

 初めて見た私服の(ばく)は、いつもの顔であたしの隣にすとんと着地。
「あ、となり座っていい? …よな」
 なんか、今度はちびちゃんママにうけてるぞ。その荷物。
「買い物の……帰り?」
 だよね、そのネギの飛び出したタヌキのエコバッグは。
「湯豆腐でも作ろうかと思って」
 だれが?
「今晩、成田に着くんだ。おやじ。…クリスマスなんかいっしょに過ごすと、女はつけあがるんだってさ」
 思わず立ち上がっていた。