片思いー終わる日はじめる日ー

「ああ。バクくん、いいなぁ。あんたのカレシじゃなかったら、とっくにあたしのものよ」
「…………」
 このへんは、ついていけないところなんだけどな。
 井森と同じ中学だった子たちのことを考えれば、あたしはまだ救われている。
 だって、勉強もできて、美人で、この性格。
 中学生の井森は絶対に無敵だったはず。
 優等生型のおとなしい男子が大半の今の環境でも、男子の視線はいつだって感じているはずだ。
 感じているのに放置。
 すごいよね。
「いい、うみ。もうここまできたら押せ押せゴーゴー。いいねっ」
「…………」
 うーん。
 考えさせてください。
 
 * * *

「ほら悩んでないで、一気!」
 まさか同じようなセリフを中井にまで言われるとは。

 初めて美術室でちゃんと机の前に座ってする授業は、まるで書道。
 目の前にあるのが(すずり)じゃなくて、紙コップに入った墨汁ってあたりが書道科のセンセを怒らせそうだけどな。
「水墨画は勢い。どん! シャッ! ぐぐぐ」
「…………」「…………」「…………」
 中井のジェスチャーつき講義に、教室に満ちる沈黙。
 そんなこと言われたって……。
 黒板に貼られた見本は松と竹。
 リアルに見たことすらないものを、どう描けと?
「お、いいぞ、石川。きみは向いてるみたいだね」
「はな、たーかだっかぁ」
 ばーか。
 石川って本当に単細胞。
 どん! シャッ!
 たしかに簡単にやりそうだわね、うん。