片思いー終わる日はじめる日ー

 あとはおぼえてない。
 思いっきりの力で腕を振りはらって。
 息も止まったまま走って走って。
 ドアの閉まりかけていた電車にとび乗った。
 満員電車のなかで、止まらない鼻水をハンカチでおさえながら、初めて気づいたこと。
 逃げちゃった。
 逃げちゃった!
 あたしったら逃げだしちゃった。

 * * *

「あんたって、ばかぁ?」
 ああ、やっぱり、井森になんか相談するんじゃなかった。
 あれからも麦の態度は全然変わらないんだけど。
 どうも。いまいち。あたしが……。
 変わっちゃったんだな、これが。

 あたしはバレーボールを、井森はテニスのネットを、片づけに体育倉庫に来てばったり。
 薄暗くて表情もろくに見えない場所で偶然ふたりきりになったら、なんとなく。本当になんとなく、話したい気になっちゃって。
「も、どうして、そこでぶちゅーうっとか、できないのかしら」
 えーっっ!
「好きなんでしょ? なんで逃げるのよ。なんか、ただでさえもたもたしてて、イライラするのにぃ」
 そ…、そうでしょうか?
「このごろ彼氏、ポイント高いよ。囲いが取れたってゆーかさぁ」
「…………」
 本当に井森って、観察力がするどいのよね。
 するどすぎて心から好きになれる子がいないのかな、って。
 自分が好かれてると思いながら納得することじゃないね、うん。