手術室の外の廊下で、中井が買ってきてくれたお弁当を食べた。
 もう夜の9時をまわってる。
「本当に、明るいお母さんよねえ」
 中井が何度目かの思い出し笑いをした。
 母さんたら。
『ついでにうちの子の頭も手術していただけないかしら』とか、中井に言ったんだって。
 ふざけてる場合なの?

「――――驚いたでしょう」
 こくん…とうなずきながら、中井と(ばく)が似てると思ったのはいつだったっけと思い出す。
「わたしも驚いた。初めて名簿にあの子の名前を見たときは――。名字だけだって目についちゃうのに……、あの名前…だものね」
「バ、ク――?」
「うん。」
「…………」
「――わたしは札幌で生まれたの。北海道の5月は、ライラックがとても美しいのよ。あの子は麦だって……。笑っちゃうわよね。同じ5月に生まれた子に、どんな気持ちで、そんな名前をつけたのかしら、ね」
「どっちも。……どっちもすごく、愛情がこもってると…思う、な」
 そんな顔しないで、中井。
 そんな疲れた顔、しちゃいやだ。