「石川っ! 歩いても、はってもいい。無事に帰っておいで」
「そうね。スタジアム組みんなで祈ってるわ、石川くん」
 石川がうつむく。
「なに? 突然プレッシャー?」
 からかってやるつもりだったのに。
「あいつにも、なにか言ってやれよ」
「…………」
 あいつ。
 まだ、口元に青いアザをつけた、あいつ。
 トラックの真ん中で、ほかの子にまじって、ひとりで黙々と屈伸運動をしてる。
 大海ちゃんが遠い目をして(ばく)を探しはじめた。
「……赤根(あかね)くん、もう行っちゃったのかしら」

 言えないでいるあたしが唇をかんだとき、石川が麦を見つけた。
「ちぇ、しようがねぇな。もう行っちゃってら。……あいつ、変に意地っ張りだからな。負けたくねぇんだろ、オレにだけは」
 トラックでゼッケンが配られ始めたみたいだ。
「でも。オレも負けねぇよ」石川が親指を空につきだして笑った。
「友だちだもんな」
「…………」
 石川はまっすぐ麦のほうに走っていく。