「本当はあいつを、あっちに出してやりたかったけど……」
 石川。
 そのフェアなとこが好きだよ。
 一生、言わないけど。
「しようがないよ。10キロと高跳びは、出られないんだもん」
 あと、残るプログラムは、クラス別の3学年合同リレー。
 クラス対抗のリレーはもちろん花形種目なので、ちょうど競技が終わってスタジアムがわいているころに、10キロ組がセンタートラックに帰ってくる計算らしい。
 そういうプログラムの組みかたは、さすがに伝統。
 そして伝統はちゃんと先輩から後輩に引き継がれるものだから、長距離の沿道に応援に出ない子たちは、1年生でもちゃんと応援席にもどってきている。
「石川ぁ、なんか…ドキドキするねぇ」
 リレーに選ばれちゃったあたしは、石川たちの応援には行けない。
 それは裏返せば、応援もしてもらえないわけで。
「あーん、有実(ゆみ)、わたしどうしよう? からだがふたつほしいわっ」
「大海はいいよ。有実のリレー、いてやれよ」
「やー、言わないで、言わないで、リレーのことは。…も、脚がすくむぅ」
「うん。すっごい熱気だもんね。わたし、心臓がやぶれそう。有実や石川くんみたいに競技に参加してたら、きっともう、たおれちゃってるわ」
「なに言ってんだよ。大海は1Dの旗手じゃないか。閉会式はおまえがいなくっちゃ、話になんないぜ。学年優勝するんだかんな、オレたちは」
「…うん」
 大海ちゃん、うれしそう。
「ママが…朝、泣いちゃって――。わたし運動会に参加するのって初めてだから……」
「運動会なんて、よせやい! こんなすげースタジアム貸切りだぜ。うー、燃える!」
 大海ちゃんが頼もしそうに石川を見る。
 ふぅーん……。
 大海ちゃんを旗手に推したのは石川だ。
 あたしは、いいと思うな。
 うん。大海ちゃん、がんばれよ。