わかんない、わかんない、わかんない!
 あたしにはあなたがわからない。
 あなたが。
 わからないよ。

 * * *

有実(ゆみ)、リレー、しっかりな。こけんなよ」
「石川ぁ。あんた、ひとの心配してる場合? 10キロだよ、10キロ。ちゃんと準備運動したの?」
「帰って来なかったら、その辺の茂みを探してくれよ。のたれ死んでるかもしんねぇ」
「とほほなやつぅ。うっちゃまんと伊勢くんは?」
「沿道の応援隊に参加してもらってるよ。もう出番ないし」
 この体育祭はうちの高校の伝統で。
 官庁街にある創立100年の学校のグラウンドはせまいので、ドーンとスタジアムを借りて開催するって、先輩たちが自慢していたとおり。体育祭というよりも陸上競技大会のノリらしい。

 うあぁぁぁぁぁぁ!

 興奮の度合いも公式のスポーツ大会みたい。
 ものすごい歓声がスタジアムの客席から響いてきた。
「高跳びの決勝、始まったみたいだな」
 あたしたち1年は初めての体験だし、もうなにもかもビックリの連続。
 Track and fieldと背中に書いた、おそろいのTシャツ姿の陸上部の先輩たちが仕切ってくれるけど、仕切られなくてもスケジュールを把握しているのは、暗記も得意らしい石川くらいのものだろう。