部活を休んでくれた伊勢くんと、半べその大海ちゃんに両脇から拘束されながら石川は帰っていった。
 あたしはキャプテンに練休届けを出して、ひとり教室にもどった。
 だんだんと影が長くなる。
 西日が赤い。
 もう半年以上ここですごしているのに初めて見る景色。

 ガラッ。
 教室のうしろドアが開いて。
 足音はその場で止まった。
 振り向かないのか、振り向けないのか。
 あたしはもう自分にも確かめないけど、待っていたのは事実だから。
(かばん)を取りにくると思ったから」
 振り向かないまま座っていた。
「…………」
 (ばく)は黙ってあたしの横を通り過ぎると、鞄をつかんで前のドアにいそぐ。
「待って」
 教室には、みるみる落ちる夕日の赤は、もうすぐ届かなくなるだろう。
 窓からの最後の光が机の上をジグザグにゆれて動いていく。
 そのかすかな灯りでピンクに染まった麦のシャツの右袖には、筆でさっと掃いたような赤い染み。血だ。