背中でパタンとドアを閉めながら、うつむいた目が見た――上履き。
「なに、話してたんだ」
 やだ。
「なに話してたんだよ」
 だれもいないと思っていた美術室に、(ばく)がいた。
「授業――さぼったの?」
 視線を合わせないように目を伏せて。
 ドアに向かう途中で、それでもあたしの目を釘づけにした…指。
「おれはおまえがわかんないよ」
 棚の上の石膏像の上をすべっていた手が止まる。

「あのひとに、おれのことを言ったら、殺す。……たとえ、どんなことでも」
「…………」
 あたしの足は動かなくなった。
 あたしの腕は動かなくなった。
 足音が近づいてくる。
「おまえはせいぜい石川と仲良くやってればいいんだ。おれにはかまうな! あのひとには近づくな!」
「……っ……」
 こわかった。
 なさけなかった。
 こんなのが、あたしたちの会話なの?

 うんと、うんと久しぶりに、やっと声を聞かせてくれたのに。
 あなたは、あたしのことを、そんなふうに思ってるの?
 大切なあなただけの気持ちを、勝手にしゃべっちゃうような、そんな子だって思ってるの?