「つきあってなんか…ないです。彼…、好きなひと、いるし……。あたしが勝手に思ってるだけ」
「…………」
「やだなセンセ。ちゃんと見て…ください、よう。あたしだって……」
 あたしだって女の子なんだから。

 あきらめようとして、あきらめきれなくて。
 つらい。

 中井にとって(ばく)は、やっつも年下で、生徒で。
 麦の気持ちは恋として受け取れないかもしれないけど――。
 特別に思ってるよね?
 こんなにいっぱい、麦がスケッチブックのなかにいる。
 麦は先生にあこがれて、あこがれて。
 先生だけを見てる。
 その気持ち、わかるから、つらいけど。
 つらいけど、あたしも少しでも先生のことを知りたい。

相田(あいだ)……」
「すみません。この話はもう……」
「うそ。だって相田……わたしはまた――…」
「この麦畑。あたしにもこんなふうに描けたらなぁ」
「ねぇ、本人に確かめてみたの?」
「このあいだの課題、あたし、こんなふうに描きたかったんですよね。センセって本当にすごいなぁ。…いつか、あたしにも描けるかなぁ」
「麦が、相田にそう言ったの? 本当に?」
 先生!
「ごちそーさまでしたっ」

 鈍感。鈍感。鈍感!
 そんなことあいつに聞けるくらいなら。
 あたしは先生に頭を下げるよ。
 とらないで。
 あたしの麦をとらないでって。