「あたし、これが1番好き」
 それは、一面の緑の中に立つ、白いシャツの少年を描いたパステル画。
 鳥や、風や、光のなかで、たったひとり。
 凛と立って、遠くを見つめている。
「…それ。相田(あいだ)との合作だよ、わかる?」
 えっ?
「ほら、夏に描いてきたでしょう、稲穂。…あれでなんとなく」
「う…そぉ………」
 きゅうに、どきどきする。
 中井との距離が縮まったみたいで。
「モチーフはその前の季節のムギにしてるけど……。相田たちが畜産試験場に行くなんて。ちょっと感動したな。なにしろ期末の前だったからねぇ。みんな、校舎なのよ。校舎以外だった子には、ちょっぴり点数を上乗せしました」
 こらこら、こら。
 そんなに堂々と、通知表のカラクリをしゃべっちゃだめでしょ。
 でも、いっしょに笑っちゃう、あたしって。
「麦秋のころ生まれたから…(ばく)か……。なかなか文学的なオヤジさん、だよね」
「バクシュウ?」
「麦が実るころ。彼は5月生まれだものね」
 そ…お、なんだ……。
「知らなかった」
「あら」中井がこくんと首をかしげてほほえむ。
「やっぱり相田って体育会系だわねぇ。ふつう女の子って、星座とか、血液型とか、夢中になるんじゃない? 特に……」
 特に?
「つきあってる男の子のことなら」
「…………」
「…………」
「…………」
 机の上に沈黙が沈殿。
 息苦しくなって、やっと言えた