中井は慣れた腰つきで、クイクイとイーゼルや机の間を進むと、戸棚から1冊のスケッチブックを引っぱり出して、きれいにかたづいた机の上に広げた。
 白いポロシャツに短パンの(ばく)
「これは、もうね、なんていうか、気持ちが乱れきってるかんじ」
 むぞうさに紙をめくる。
「これは、そうね…、まるで置きものでも描いてるみたいだったかな」
 真っ白な真新しい白衣の麦。
「これは…わからないわ。気がついたら描いてたの」
 窓辺で、眠ってるみたいに目をつぶっている麦。
 みんなみんな、麦の横顔。
「これは……」中井はきゅうに次の1枚をめくる手を止めた。
「あー、わたしったらなにやってんだろ。どうしてこんなに教師の自覚がないのかしら。相田。授業が始まっちゃう!」
 ふたりで同時に壁の時計を見る。
「――始まってます」