「はい、じゃあ5分。はじめまーす」
 みんながそれぞれ好きな角度を探して移動する。
 視界がふさがらないうちにあたしも、大好きな(ばく)の右のプロフィールがしっかり見える位置に移動。
 このごろ、あたしには麦の背中だけが友だちだから。
「あ、ごめんなさい」
「どういたしまして」
 (ひじ)がぶつかった相手は中井だった。

 さらさら さらさら

 鉛筆がたてる音。
 できあがるものに雲泥の差はあっても、今、中井とあたしと麦の間で流れる時間は平等だ。

「はい、ご苦労さま、次……」
「ハンサムに描いてくれよ」
 中井に指名される前から、すっかりその気の石川のせいで、一気にみんなの緊張が解けるなか、中井があたしにささやいた。
相田(あいだ)の描く赤根(あかね)は、男っぽいね」
「えっ……」
「わたし、好きだな」
 あらためて自分の描いたモノを見返しているうちに、中井はすぅーっと離れていってしまったけど。
 気分で、ついたりはなれたりする、あたしみたいな生徒に、中井はいつもやさしい。
 中井にやきもち妬いたって、しようがないんだ。
 かないっこ、ない。
 知ってるもん。