第6章・10月『ジグザグ』

 どうして季節は学生に、こんなに冷たいんだろう。
 どこまでも続く青空。
 耳をくすぐって吹きすぎる風。
 半袖シャツで走って、走って、感じたい。
 なのに、分厚い上着が帰ってきた。

相田(あいだ)、暑かったら上着脱いでいいのよ、掃除中だし」
 中井ねえ、クロッキーモデルが途中で服を脱いじゃ、みんなが困るでしょ。
「いいです、これで」
 だいたい、なんで?
 小道具は自分で選んでいいって言ったのに。
 C組までのみんなは自分で選んでたのに。
 なんであたしだけ『どぞ』ってモップを押しつけられるのよ。
 しかも、袖をたぐって、渾身の力で床を拭く姿をリクエストって。
 もう少しかわいいイメージないの? あたしって。
 も、なんでもいいから、早く5分たってぇ。

「はーい、ご苦労さん。次、赤根(あかね)。小道具は?」
 中井の指名で、黙って小道具が集められた教卓に向かった(ばく)は、しばらく立ち止まって、結局なにも取らずに振り向いた。
「――このままで」
 教卓に腰で寄りかかってクロッキー帳を広げる。
 ただそれだけなのに、そこにいるのは画家…だった。